98/07/10千沢はまるで水路

 千沢(センザワ)に、先日行って来ました。94年の7月7日発見、イタドリ沢出合下流の核心部で遭難死した青年(97/10/24「過去の資料から」) の供養を兼ねて。


 8日の朝8時、ダムサイトの駐車場に車を止め入渓支度していると、かすかにダムから放水している音が聞こえる。「へんだな?」地元では「夏場は放水しない」と、さも常識のように云われている。事実私も夏場に放水しているのを見たことがなかった。


 ダムの天場から見ると恐ろしいほどの水量が放水されている。それでも様子を見るため放水口まで降りてみようと下る。


  試しに徒渉を試みる。水流は激しいものの水深は膝上10㎝位。「なんとかなりそうだ」。しかし、3度4度徒渉を繰り返す内に、「どうもおかしい」と感じてきた。自然の流れとは全く違うのだ!まるで水路を歩いている感じで、水流の弱点がほとんど無い。


  水深が腰近くある流れでも、よく探せば徒渉ポイントがあるものだが、ここでは流れが一様で気が抜けない、水深の割に水流が強すぎるのだ。


  やっと誤りに気が付いた。
「まるで水路」ではなく「全く水路そのもの」であることを。発電用に貯めた水を下流の発電所に送るために千沢を水路代わりに使っているので、本来の流れとかけ離れたものになっていることを。


危うく遭難するところであった。


 千沢の支流ハンノキ沢にエスケープする事にした。ハンノキ沢は秋山郷へ抜ける登山道と交錯しているからだ。竿を持ってきたので登山道までの間釣り上がることにしたが、あたりも無ければ魚影も無し。途中7mの滝もあり渓相としては申し分ないのだが、岩魚がいないことを確認できてホッとする。


 千沢は下流渋沢ダム上で魚野川と合流する。魚野川は皆さんご存じのとおり、天然の岩魚が棲む沢です。しかし、最近渋沢ダム付近で養殖岩魚を釣り上げたとの情報が信頼できる筋から入ってきた。とんでもないことだ。天然の岩魚が棲む沢に養殖岩魚を放流することは乱獲以上に許されない行為である。わざわざ渋沢ダムまで養殖魚を運び上げることは考えづらく、野反湖方面から放流したと考えるのが自然である。ある意味で遺伝子破壊行為とも云える配慮無い、無神経な放流に怒りを感じる。


 さて、話を元に戻しましょう。登山道との交錯地点で昼食にし、荷を置き身軽にして上流も探ってみることにした。途中、取水口で作業を行っている工事の人がいたので聞いてみた。1週間ここで作業しているが一度も見たことが無いという。さらに確認のために上流部に進む。本流と枝沢のタカンボウ沢、共に探ってみたが気配無し。


 岩魚がいないことを確認して帰路に就く。ダムサイトに着きもう一度確認のためにダムの天場に行き下を覗く。


  「おいおい、なんだこりゃ!」
放水量が激減しているのだ!「どういうことだ?」早速、野反湖ロッジに問い合わせるが、全然解らないとのこと、さらに、対岸の案内所と看板のある休憩舎でも同様の答え。「ここの観光資源で飯を食っていて全然知らないとはどういうことだ。」と喉元まで出かけたが、どちらも同村の顔見知りであるためぐっとこらえる。おばさんは気の毒がったのか、東電の詰め所で聞けばどうかと云ってくれた。運良く東電の車が止まっており職員がいた。


 正直な話、説明を求める前に少々緊張した。「ばかもん!死にたいのか!ダムの放水期に入渓するとは何事か!立入禁止だ!」と云われるかもしれないと。ところが、以外にも親切に詳細な説明をしていただいた。以前では考えられないことである。


その内容は、
1,毎年この時期は放水していること。
2,放水期間は決まっていないが、今年は6月末から9月初旬まで。
3,土日は原則として放水量を下げる。(毎秒0.5トン)
4,午後3時半から徐々に放水量を下げ翌朝6時迄は毎秒0.5トン。
5,午前6時から午後3時半の間は毎秒4トン。(なんと8倍!)


 全く知らなかった。たまたま野反湖に来たとき放水量が少ない時期ばかりだった事と、地元の誤った常識にとらわれて、誤解していました。


  この事実を知らず、たまたま放水量の少ない時間帯に入渓し、朝に放水されればアウトでした。自然の条件下では判断できる増水が、この時期の千沢では、まったく判断できない人為的に行われる増水の事実があったのです。


 ここで、危惧する材料があります。
 昨年千沢に入渓したグループが登山や釣りの情報雑誌に紹介文を投稿している点です。
 その一方の(山と渓谷)投稿内容にダムの放水に関する記述が一切無く・・・まあ、一般の地形図でもダムは載っているので放水状況を調べるのが入渓者の常識でしょう。


  が、しかし、はっきりと覚えています。昨年彼らが入渓した日、私は野反湖のバンガローに泊まっていましたから。(当時、千沢に入渓者がいたとは知りませんでした。)


 台風が来ているのにも関わらず、9月の連休であったため野反湖は盛況でした。


 その時にはダムの放水も完全に止まっており、遡上を安易にさせた状況があったのです。さらに、台風のコースが逸れたため降雨は意外に少なく千沢に流れ込む雨水はそんなに多くなかった。それでも30㎝の増水があったと書かれていましたから彼らはよほど強運の持ち主だったのでしょう。放水されれば、プラス50~60㎝、この事を彼らは承知していたのでしょうか?


 同じ日、すぐ近くの魚野川で遭難者(97/09/19「魚野川で不明の信大生、遺体で発見」 )が出たことも・・・。


  この様な状況下(台風直撃の可能性有り)、私なら絶対入渓しません。


  最後に、東電の職員から聞いた内容はあくまで原則で、変更されることがあるそうです。命に関わることですからご自分の耳で確認して下さい。私自身まったく誤った認識でした。反省しています。


  翌日、東電の人に入渓報告をし、ダム下の堰堤で減水を待ち、その間隙を縫って再挑戦したのは云うまでもありません。



放水中(上流)  放水中(下流)

放水中


減水中(上流)  減水中下流)

減水中


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