99/10/31世立八滝

概略図

 天候は曇り時々晴れ、紅葉のタイミングはバッチリだが今年の紅葉は今ひとつ良くない。


 前回ここを訪れたのは93年の11月3日。その際に「次回来るときは紅葉の時期に来よう」と思った記憶があり、それから思えば、今年の紅葉は早いのか?


 六合村は世立地区、滝見ドライブインの両サイドを流れる八石沢と依田尾川の僅か250mの区間に八つの滝がある。


八石沢に、大仙(おおせん)の滝、段々(だった)の滝、箱の滝、久内(きゅうない)の滝、不思議滝、井戸の滝、殺人(さつうぜん)の滝。


依田尾川に、仙(せん)の滝。これらを併せて<世立八滝>と呼んでいる。それぞれの滝名にも個性あり、伝説もありで興味をそそるが、すべての滝を見た者は数少ない。実は、前回始めて挑戦した時、不思議滝と井戸の滝を見落としてしまい、悔しい想いをしたのだ。


 僅か250mの区間で、高度差80m。


 この数字が物語る渓相。沢床を歩ける区間は、大仙の滝上~段々の滝間の一部と、井戸の滝上~殺人の滝間しかない。


 高巻き、大高巻きの連続。崖・ゴルジュ・ザレ場・草付き・灌木が行程の9割である。最低、ザイル・スリング等の登攀具。当然それらを使いこなす技術が必要とされる。したがって、沢登りのランクとしては高いレベルであるといえる。


 とはいえ、安全確保をとりながらであっても、滝見ドライブインから天竜橋袂の駐車場まで5時間もあれば行ってこられる。


 正直に言えば、写真を撮りながらであったが、2時間30分で走破した。その根拠は、登攀具を使用した安全確保を怠ったからで、決して自慢できることではない。<正統派>の沢登りなら、<絶対>に<安全確保>する。



 それでは、遡行(?)記録を始めます。


 滝見ドライブインから大仙の滝までは整備された水平道があり、滝の間近まで安全に行くことが出来る。今日は取水されていないので、滝本来の姿が見える。歩道終点から直接尾根に出ることも出来そうだが、50m程引き返し斜面が緩くなったところから右岸稜線部に出る。

大仙の滝
大仙の滝


 稜線を忠実に辿ると、木の測量杭が目に留まる。T-17、T-16と続き、眼前に大岩が現れると踏み跡は左を巻いている。この大岩は国道から見える尖った岩だ。


 次に現れたコンクリ-ト製の杭には赤色で<山>と穿かれている。営林署が設けたもでであろうか。2基目を確認したところで、小さな鞍部状となった所に出る。


 踏み跡は北東の方にも続いているが、引き返すように前出の尖った岩のピークを目指す。明確な踏み跡があり、痩せ尾根を下り始めると対岸の崖に天狗の足跡を正面に見る。この痩せ尾根は大仙の滝前の歩道終点付近とつながっていて、ルート短縮になるかもしれない。次回には確認してみよう。


 天狗の足跡は国道からも見えるが、ここからのアングルが秀逸である。天狗が空に駆け上がった際、崖に足跡を穿った伝説があり、畳1.5枚分くらいの足跡型が、崖の壁面に穿かれている。

天狗の足跡
天狗の足跡


 途中から左に曲がりトラバース。最後に沢床に降りるところが急である。虎ロープが残置されて、よく見るとまだ新しく結び目もしっかりしているので利用させてもらう。


 沢床に降り立つ。左岸は50m以上の崖でとりつくしまもない。右岸の苔付きの風倒木を抱くようにして登り上がると、段々(だった)の滝がいきなり現れる。

段々の滝
段々の滝


 段々の滝手前にはステージ状の棚があり滝を間近で見るには最適だ。おもわず、この棚で滝にまつわる神聖な儀式を行うイメージが浮かんだ。出来過ぎといって良いくらいのロケーションなのだ。一見の価値有りだが、取水しているときには全く違った印象となる。

ステージ状の棚
ステージ状の棚


 滝に洞窟があると聞いていたが見えない。


 棚から慎重にザレ場を登ると、カモシカ道に当たり、そのままトラバースしていくと箱の滝が現れる。滝の渕が升のように見えるから付いた滝名だ。

箱の滝(淵の下から)  箱の滝
箱の滝(淵の下から)                  箱の滝


 滝の間近までカモシカ道がありそのまま箱の滝上段に出ようと試みたが危険である。あきらめて少し引き返し別ルート探す。巻き道は必ずあるモノなのだ。


 あった。登り気味にトラバースして行くと、根がめくり上がった最近の風倒木に続いている。風倒木を過ぎるとザレ場のトラバースだ。ザレ一面に落ち葉が積もり、手がかりも全くない。ザレ場の最下部は崖となっているようで下が見えない。


 此処での草付きやザレ場のトラバースは、ほとんどがこの様な地形で、一瞬の気の緩みも許されない。スリップしたらそのまま滑落死につながる。


 トラバースを終え灌木を越えると整備された歩道に出る。巡視路だ。巡視路にしたがって降りていくと、鉄製の柵があり、鍵が架かっている。<立入>禁止の看板があるので、<横入り>で入る。


 コンクリート製の階段を下り、縦坑の屋根から沢床に降り立つと目の前が久内(きゅうない)の滝だ。昔、河童が渕に久内という人を引きずり込んだと云う伝説があり、その渕を久内渕と呼んでいる。


 久内渕の下流に高さ1.2m程の角落し堰堤がある。今は、この堰堤のゲートが解放され自然の流れのままになっているので、下流の滝々が本来の姿を見せているのだ。


 取水するときには、ゲートに角材を堰堤の天場付近まで落とし、ダム化して縦坑へ水を落とし込む。大雨が降らない限り、水が堰堤を越す事はなく、角材の隙間から流れ出る水が唯一の流水なのだ。


 以前来たときは取水していたので、段々の滝の勇壮な姿が見られなかった。<神聖な儀式を行うイメージが浮かんだ>のは<本来の姿>が見えたからだ。人工物は本来ある自然の<勇壮さ>や<壮大>な姿を隠してしまう典型的な例である。


 久内の滝は右岸から越えることが出来る。その先から狭いゴルジュとなっており、不思議滝を見ることが出来る。


 「久内の滝上から滝音が聞こえるのに、滝が見えないので不思議だ。」から、付いた滝名である。堰堤から左岸に渡り、岩を少し登ると久内の滝と不思議滝の関係をうかがいしれる。右岸の崖が屏風のように立ちはだかっているので、通常は見えないのだ。

久内の滝
久内の滝(上段は不思議滝だが、人の立っている位置からは見えない)


 今回長靴で来たため滑り危険であったが、WDシューズなら不思議滝を突破できるかもしれない。突破できれば、井戸の滝も全容が拝める。次回の課題だ。


 今回は足の支度が悪いものの、強引に久内の滝を越えたから間近に不思議滝が見えたのだ。


 井戸の滝を拝むにはどのルートを取ればいいのだろう?2.5万図を眺めても読み取れるほど詳細でない。地勢から判断するしかない。前回は一旦、巡視路を登り上げ、主稜線に出るルートであったため、不思議滝と井戸の滝を見落としてしまったのだ。


 これも強引であったが、久内の滝右岸の崖に取り付き、痩せ尾根を登ることにした。スリングが2~3本欲しいところだ。結果は正解で、これも全容を見る事は叶わなかったが、途中から井戸の滝を確認することが出来た。様相は段々の滝の1段目とよく似ている。

井戸の滝
井戸の滝


 そのまま痩せ尾根を詰め、主稜線に出る。主稜線からトラバース気味に降りていくルートが解りづらい。急降下していき、「これ以上は」と、躊躇する頃から上流に向かってトラバース気味に降りて行く。


 やがて沢床に降り立つ。やっと沢歩きらしい状態になった。程なく右岸に泡立の滝を巻く虎ロープを見る。ロープに従い登りあげると、殺人の滝が現れる。(「おさつのせん」とも云う)はやる気持ちを抑え左岸へ渡渉し滝下の広場に出る。本行程中唯一空が広く見える所だ。

泡立の滝
泡立の滝


 殺人(さつうぜん)の滝。呼び名もユニークながら、その滝の形状が素晴らしい。水が吹き出しているのだ。正確には2段の滝で、1段目の水流を受け止めている段が、浅いスリバチ状となっているため、そこで水流のエネルギーが前方(下流)へ向かい、勢いよく放水しているように見えるのだ。


殺人の滝(正面)
殺人の滝(正面)

 正面から見ると解らないが、側面から見ると10m位先まで水が飛んでいるのが解る。例えが悪いが消防ホースを10本束ね、水圧を下げ一斉に水平放水すればこの様になるだろう。

殺人の滝(側方から)
殺人の滝(側方から)


 真夏に来れば、水しぶきが気化現象を起こし、爽快な演出との相乗効果で、納涼には最高であろう。


 滝の脇、右岸を上っていくと再び虎ロープと遭遇する。今回これで3本目だ。いずれも結び方、古さ(新しい)から推測すると同一人物が設置したモノと思われる。さらに、設置された場所から推測するならば、(途中ヤマメも見たから)釣り人が設置したと断定しても良いだろう。


 ロープが終わったところから、人の踏み跡がしっかりと付いており、そのまま辿ると歩道に出る。途中、傍らに社を見る。本行程の安全を感謝し手を合わせ車に向かう。


 車で最後の仙の滝を目指す。歩いていっても20分くらいだ。車道から滝を確認し歩き出す。遊歩道を計画しているのだろう。測量をした後があり、滝下まで簡単に行ける。水量が少ない滝だ。

仙の滝(車道から)
仙の滝(車道から)


 この滝は<見る>より<触る>感覚で楽しめる。滝下は巨石の累積帯で荒々しい。岩下を歩いたりと、まるで胎内巡りをしているようである。それに比べ滝そのものは女性的で、岸壁に伝い流れる水は柔らかい。

仙の滝
仙の滝


 かつては滝の様相が違っていて、巨石の累積は、台風で滝が崩れ出来たそうだ。昔、立派な滝だった頃、仙人が感服したと云ういわれから付いた滝名だ。


 今回の滝巡りで最も印象的だったのは、やはり段々の滝である。あの幻想的な風景は、宮崎アニメに出てくるそのものであった。


 村では世立八滝を観光化するようである。人を寄せ付けない今の汚れなき姿を、脳漿に留めておくしかなのか?国道から僅か200mしかないこの秘境が手つかず(取水施設は別として)に残っていたこと自体が奇跡だったのかもしれない。

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